第44回全日本学童マクドナルド・トーナメントと関東学童の予選、山梨県大会は6月2日に閉幕。3位決定戦は昨夏全国8強の甲斐ジュニアベースボールクラブ(JBC)が、連合チームの青桐・羽黒・千塚JBCを5回コールドで下した。前日の準決勝での敗北で上部大会の目が消えた両軍だが、緊張の糸を切らすことなく、それぞれに持ち味を発揮した。
※記録は編集部、決勝戦評は後日公開します
(写真&文=大久保克哉)
第3位甲斐ジュニアベースボールクラブ
■3位決定戦
◇6月2日 ◇緑が丘スポーツ公園
◇ふじでん球場
青 桐 11000=2
甲 斐 00252x=9
※5回コールド
【青】石合、石濱-土橋
【甲】村井、中込旭-中込旭、村井
本塁打/中込旭(甲)
序盤ビハインドでも慌てる様子のなかった甲斐。「監督の焦りや緊張は子どもに移っちゃうので、どう落ち着いて構えられるかがボクの今からの勉強です」と中込監督
甲斐市内の5チームが合併して2021年に船出した甲斐JBCは、昨夏の全日本学童での快進撃が記憶に新しい。6年生(現中1)が18人、切れ目のない打線で3回戦では14安打15得点。2回戦では全国準Vの実績もある強豪・北名古屋ドリームス(愛知)を1点差で退けてみせた。
発足4年目の今年は6年生が11人で5年生が9人。昨夏の夢舞台を経験した選手はいないが、照準は当然、そこに合わせてきたという。父親監督の中込裕貴監督は、県下一の厳しさを自認する。
「世の中の逆風じゃないか、というくらいに厳しくやってきました。野球はメンタルスポーツ。10の力が本番で3になっちゃう子がいれば、3の力が本番で5になる子もいる。だから厳しい特訓で、厳しいプレッシャーを与えてきました」
青桐・羽黒・千塚JBCは合同で大会に参加して2年目になる
一方の青桐・羽黒・千塚JBC(以下、連合軍)は、合同チームとなって2年目。ユニフォームは青桐で統一、6年生12人に5年生3人、4年生5人。羽黒出身の佐藤竜雄監督は一枚岩となれたことが、ここまで勝ち上がれた要因だと語った。
「一つになるというのは難しい面もありましたけど、逆にこの出会いの縁を親御さん含めてとても大切にしてくれて、よくまとまってくれました。指導者冥利に尽きますね」
3回を境に形成逆転
戦いの先に上部大会はないものの、両軍ともベスト布陣で対峙した。スタメンのうち5年生は連合軍が2人、甲斐には3人。
連合軍は1回表、二番・佐藤天の二塁打(上)を皮切りに先制。2回には八番・花形(5年)が中前タイムリー(下)
先に主導権を奪ったのは、連合軍だった。
1回表、左中間へ二塁打を放った佐藤天星が暴投とボークで先制のホームイン。2回には一死二塁から5年生の八番・花形士侑が中前へタイムリーを放ち、2対0とした。
「みんなのために絶対に打って二塁ランナーをかえそうと思っていました。この大会では6年生と一緒に5年も活躍できて、5年は6年生のためにできて、良いと思いました」
試合後にこう振り勝った花形は、第2打席はフルカウントから空振り三振。その後は6年生に出番を譲るも、上級生の速球にタイミングを合わせながら貫いたフルスイングが渋く光った。佐藤監督も「花形は周りも見える良い選手。6年生のために、とやってくれた気持ちを大事にしたいなと思います」と称えた。
甲斐は3回から登板した中込が外野への打球を許さない力投(上)。3回裏には自ら同点2ランも放つ(下)
主導権は3回を境に入れ替わる。
表の守りでマウンドに立った甲斐の二番手・中込旭飛が、無死三塁のピンチも気迫の投球で脱すると、その裏に自らのバットで同点2ラン(ランニング)。
さらに4回裏、四球や敵失で3対2と勝ち越すと、代打・金丸大吉の左前打と二盗で一死二、三塁。ここで5年生の志澤千俐が2ランスクイズを決めて5対2とする。なお、四球と菅谷日路主将の中前打で上位打線につなぐと、一番・中込が右越えの2点二塁打で一気に5得点と、リードを大きく広げた。
4回にスクイズを決めた5年生の志澤は、堅実な三塁守備も目を引いた
対する連合軍の打線は、二番手投手の速球に押し込まれてしまう。結局、クリーンヒットがないまま5回表も終了。
するとその裏、甲斐は四番・松土心優が適時三塁打で8対2に。続く村井はレフトへ犠牲フライを上げて松土が生還、7点差となってコールドが成立した。
5回裏、甲斐は無死一塁から四番・松土が左中間へ三塁打(上)で8点目。そして五番・村井がレフトへサヨナラ犠飛(コールド勝ち)を放つ(下)
「昨日(準決勝)と今日とでは、まるっきり別人のようでした。今日はもうノープレッシャーじゃないですか」と、勝利後も淡々としていた中込監督だが、選手たちを労うことも忘れなかった。
「厳しさに耐えてよく頑張って、よく続いてきました。ボクの中では自慢の子どもたちです」
バックは無失策で本塁打あり、5盗塁あり、2ランスクイズあり。鼻先の人参が消えようとも、抜かりなく戦って勝ち切った。そういうメンタルもまた「厳しい指導」の成果ではないだろうか。
敗れた連合軍はベンチ前に並び、相手チームの3位表彰に拍手。その後、当然のように一人でベンチ内を掃き掃除した背番号30が希望を口にした。
「この大会では十分に力を出してくれたし、てっぺんも狙えるチーム、選手たちだと思っています。まだまだ大会もありますので、楽しみにしています」
―Pickup Hero―
投打で大活躍も、「全国しか見てこなかったので…」
[甲斐6年/捕手兼投手]
なかごみ・あさひ中込旭飛
本塁から二塁へも、なかなかに強くて正確な送球だった。途中からマウンドに立つと、投球フォームとボールの勢いで存在感をさらに増した。
「しっかりゼロで抑えて、流れを持ってこようと思いました」
0対2で迎えた3回表、相手は一番からという好打順で登板。いきなり内野安打を許し、盗塁と暴投で無死三塁のピンチを招くも、そこから3者凡退で切り抜けてみせた。
結局、5回表まで打者11人に対して、外野まで飛ばされた打球はゼロ。被安打は内野安打の2本のみで、3奪三振の無失点という力投だった。
小学生でこれほどの球威があると、一人相撲になるケースもあるが、マスクを被る村井謙心は「ゾーンで勝負だよ!」とベース上の空間をゼスチャーで示しながらリード。また、「山梨一、厳しい」と豪語する父・中込裕貴監督からは常々、こう忠告されているという。
「自分で一人でやるんじゃないよ。バックに守ってもらうんだぞ!」
自らの投球で流れを変えた直後、3回裏には左中間へ同点のランニング2ラン。続く4回には右越えに2点二塁打と、MVP級の働きだった。しかし、首から銅メダルをかけても、複雑な表情をしていた。
「全国大会に行きたかったです! そのために、厳しい練習にもみんなで耐えてやってきたし、ずっとそこしか見てこなかったので、先のことは何も決めてない」
夢破れた翌日の一戦でも緩むことなく、これだけのハイパフォーマンスを見せたのだ。昨年の先輩たちに続く全国出場はならならなかったが、結成(合併)4年目のチームはまた新たな誇りを手に入れたような気がする。